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YUZURIHA NEWS


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by cha-yuzuriha
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電気スタンドの謎

この電気スタンドが気になりだしたのは去年の夏。
はけいちでもおなじみの「花と古道具urikke」さんのインスタグラムで見てから。なんか見たことある電気スタンド・・・
電気スタンドの謎_a0026093_21122326.jpg

「いつ見たんだろう」と考えてみたものの、思い出せない。
うーん、仙台の民藝店で働いていた頃だろうか・・・そんな気もする。どこのもの?電気スタンドといえば松本か鳥取?松本じゃないよなあ、などとしばらく考えていたところに、鳥取にいる『民藝』編集部時代の元同僚おさきまりこさんからメールがきたので、その返信に写真を添付して「このスタンドどこの?鳥取?」と投げかけてみた。真面目なまりこさんは「うーん、鳥取じゃない気がしますけど、気になりますね。調査します」とすぐに調査に入ってくれた。
鳥取の民芸木工、辰巳木工にも聞いてくれて、どちらも違うと。「鳥取の挽物技術はもっとすごいですよ」とのお言葉もいただき、安易に聞いたことを反省。確かにこのスタンドはそれほど技術の高い挽物ではない。そのシンプルなかたちがまたいいのだけど。
しかし、鳥取は昔木工が盛んだったから、鳥取製であることまでは否定できないと。鳥取たくみの方にも聞いてくれて、たくみにも以前これと同じものを「修理してほしい」と持ち込まれたことがあるそう。でもどこのものかわからなくて困ってしまったのでもしわかったらぜひ教えて」と言われ、ますます真面目に調査しなければならなくなった。(自分で蒔いた種ですが)

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urikkeさんに追加で撮ってもらった写真。
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シェード部分は松本民藝家具の電気スタンドと同じかたち。
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スタンドの底の部分。
電気スタンドの謎_a0026093_21131237.jpg

やはりこれをみたのは仙台で働いていた時代かもしれないと思い、仙台の光原社に聞いてみることにした。
私が働いていたのは、倉敷から帰って来た20歳から24歳の間。平成になったばかりの頃だ。光原社の仙台店は50周年を昨年迎えた。光原社の奥さんは記憶をたぐってくれて「開店した頃に扱っていた千葉県のあおき工房というところのスタンドではないかと思う」と証言してくれた。「あおき工房」初めて聞く名前だ。ググってみたけれど何も出てはこない。これでもう行き詰まったかなと思った。

するとまたまりこさんからメールが。『和風が暮らしいい。』(2005年1月号)にこのスタンドによく似たものが出ているとのこと。その写真は倉敷市の浅野薫さんのご自宅の写真だった。どうしてまりこさんはこんなに記憶力がいいのかよくわからないのだけど、とにかく質問するとなんでも出てくる。浅野さん、懐かしい。こんな雑誌の取材を受けておられたのはまったく知らなかった。
この方は岡山県民藝協会の古い会員さんで、倉敷ガラスの小谷真三さんが外村先生に言われて初めてコップを吹き始めた頃から支援されていて倉敷ガラスもたくさん持っておられる。『少年民藝館』にも謝辞が出ている方だ。また倉敷で生まれ育った私の母のいとこ(アマチュアカメラマン)の小学校の時の担任の先生でもある。そして同じく岡山の協会の重鎮で、高田統子さんという方がいた。本染手織研究所の研究生の中で希望者が通っていた料理教室先生で高田さんは浅野さんの親友だった。研究所を卒業した翌年だったか、高田さんと一緒に浅野さんの家に遊びに行ったことがあった。余談だが高田さんは戦前は倉敷紡績で働いていて、沖縄から来ていた女工さん達のお世話係だった。その中に芭蕉布の平良敏子さんがいて、その友情はずっと長く続いていた。
浅野さんの家に遊びに行った時、私は20歳、当時の浅野さんと高田さんは70歳くらいだっただろうか。美観地区から歩いて15分くらいのところにあるそのお宅で、浅野さんとお母さん、高田さんと私で、楽しくおしゃべりしたのは覚えている。でも電気スタンドの記憶はまったくなかった。

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浅野薫さん(左)と薫さんのお母さん。『和風が暮らしいい。』から。
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同じく『和風が暮らしいい。』から。


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外村吉之介著『少年民藝館』のあとがきにある謝辞。大月一清さんも
岡山県民藝協会の会員で小学校の先生。この本が出たのは私が外村先生の弟子に
なる前なので浅野さんたちがどんな風に知恵を貸したのかは見ていない。


しばらくしてまたまりこさんから連絡がきた。古い雑誌『民藝』を調査したら、「たくみ」の広告が出てきたと。それは銀座のたくみが昭和37年11月号に掲載した見開き広告だ。私も昭和37年の『民藝』は広島の古い協会員さんから譲って頂いて持っているのですぐに見てみる。それによると新宿西口の小田急百貨店の7階に新たに出店すると書いてある。銀座の店や新宿店で取り扱いをしているスタンドということで掲載されているのだろうか。しかし残念だからどこの製品なのか書いていない。「えんじの木目を生かした木製スタンドに和紙の折りたたみ式のシェード」とだけ説明されている。
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ここまでの調査から結論を導き出すと、このえんじの木で作られたスタンドは昭和30年代の後半から40年代、銀座たくみや仙台の光原社で取り扱われていた。また倉敷在住の浅野さんの家にもあったことを考えると岡山県内の民藝店でも販売されていたのかもしれない。

もうこの調査も行き詰まったなあと思いながら、そろそろまとめようかと思っていたある日、屋根裏で探し物をしていたら古い写真が出て来た。それは私が20歳の時に浅野さんの家に遊びに行った時の写真だった。しっかりと電気スタンドが写っていて、まるで私と電気スタンドの記念写真だ。浅野さんの家にこのスタンドがあった記憶はまったくない。しかし私の潜在意識の中にはあったのだろうか。30年経って自分で自分に驚かされるとは・・・

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小谷真三さんのガラスをバックに写真を撮ったつもりだったのだろう。
岡山の版画家、岩垣正道さんの版画も見える。

ますます気になって来たけれど、もう手詰まりなので調査はここでおしまい。友人を振り回しながらの自分の記憶をさかのぼる旅。なかなか楽しかった。

このスタンドがどこのものなのかご存じの方がいらしたらぜひ教えてください。

by cha-yuzuriha | 2019-03-20 21:47 | 手仕事・工藝・デザイン
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